今後どう変わる?年金制度改正法のポイントを解説

今後どう変わる?年金制度改正法のポイントを解説

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2020年6月に公布された、年金制度改正法「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」には、公的年金の改正事項が盛り込まれています。「働き方の多様化」と「長期化する高齢期」という今後の社会経済の変化に対応したものが多く含まれ、私たち個人の生活設計においても見逃すことができない内容となっています

社会保険(厚生年金および健康保険)の適用拡大

年金制度改正法,ポイント

(画像=africa-studio/stock.adobe.com)

社会保険の内容については、これまでに幾度かの改正が行われてきました。特に短時間労働者の保障を厚くするというのに重点が置かれてきたことは注目すべき点といえます。

現在では、週20時間以上30時間未満で働く短時間労働者が一定要件の下で厚生年金に加入できるのは、従業員501人以上の企業です。なお、500人以下の企業であっても、労使合意に基づいて任意で適用拡大することが可能です。

適用拡大の意義

社会保険の適用拡大の意義は、「被用者にふさわしい保障の実現」「働き方や雇用の選択を歪めない制度の構築」「社会保障の機能強化」であるとされ、事業主に雇われている労働者に対して、できるだけ等しく社会保険制度を適用していこうとするものです。

拡大の内容と今後における影響

今回の改正法では、企業規模要件について2022年10月に100人超の企業、さらに2024年10月には50人超の企業まで段階的に引き下げられます。厚生年金保険料の負担は労使折半であることから、この適用拡大により事業主の負担は増加することになります。そのため、特に中小企業においては補助金や助成金などの支援の検討が必要となると考えられています。

社会保険に加入できることで、労働者には多くのメリットがあります。老後には老齢基礎年金に加えて報酬比例の老齢厚生年金を受け取ることができ、万が一のリスクに備えた障害厚生年金や遺族厚生年金といった保障もあります。さらに健康保険にも加入することになるため、病気や怪我、出産時に仕事を休まなければならない際には所得保障としての傷病手当金や出産手当金といった独自の給付を受けることができます。

さらに、社会保険適用拡大を進めていくことで基礎年金の財政に影響を与えることとなり、その結果、受け取り始めるときの年金額がその時点の現役世代の所得に対してどの程度の割合かを示す「所得代替率」が上昇します。なぜなら、適用拡大によって国民年金の第1号被保険者(自営業者、農業・漁業者、学生および無職の方とその配偶者の方)の減少につなげることができ、それによって第1号被保険者1人当たりの国民年金の積立金が増加し、将来の基礎年金の給付水準を支える効果も大きくなるためです。したがって、適用拡大は将来の年金受給者全体に関わる重要な施策といえるでしょう。

このように、公的年金制度を長期に渡って給付の十分性を考慮しながら持続可能なものとしていくためにも、適用拡大をさらに進めていくことは重要な意味を持つものであるといえます。

なお、今回の改正では上記のほかに、個人事業所の厚生年金の適用について約70年ぶりに対象業種の一部見直しが行われました。改正により、これまで非適用業種であった弁護士や税理士、社会保険労務士などの法律および会計事務を取り扱う士業について、2022年10月より個人事業所でも常時5人以下の従業員を使用していれば、適用事業所として認められることとなります。

受給開始時期の選択肢の拡大

現在、公的年金の受給開始は原則65歳となっています。ただ、年金の繰り上げもしくは繰り下げ制度を活用することによって、60歳から70歳までの間で受給開始時期を選択できます。

受給開始時期の改正点

今回の改正法では、2022年4月から年金の受給開始時期に関して、現行の60~70歳から60~75歳へと選択肢の幅が拡大されます。つまり、自分の就労状況などに合わせて年金の受取開始時期をより幅広く選択できるよう、年金の繰り下げの上限年齢を現在の70歳から75歳へ拡大されることになります。

繰り上げ減額率の変更

また、年金繰り上げ受給の際の繰り上げ減額率は現行のひと月当たり0.5%から0.4%へ変更されることが決定しました。繰り下げ増加率については、現行のひと月当たり0.7%のまま変更はありません。

参考までに、本来の年金月額(65歳受取開始時)が15万円と仮定した場合の繰り上げ、繰り下げ受給額はどのように変わってくるのか、制度の改正点も踏まえて見てみましょう。

受給開始年齢 増減率 受給額
改正前 改正後 改正前 改正後
60歳 -30% -24% 10万5,000円 11万4,000円
61歳 -24% -19.2% 11万4,000円 12万1,200円
62歳 -18% -14.4% 12万3,000円 12万8,400円
63歳 -12% -9.6% 13万2,000円 13万5,600円
64歳 -6%
(0.5%×12ヵ月)
-4.8%
(0.4%×12ヵ月)
14万1,000円 14万2,800
65歳 0% 0% 15万円 15万円
66歳 +8.4%
(0.7%×12ヵ月)
+8.4%
(0.7%×12ヵ月)
16万2,600円 16万2,600円
67歳 +16.8% +16.8% 17万5,200円 17万5,200円
68歳 +25.2% +25.2% 18万7,800円 18万7,800円
69歳 +33.6% +33.6% 20万400円 20万400円
70歳 +42% +42% 21万3,000円 21万3,000円
71歳 +50.4% 22万5,600円
72歳 +58.8% 23万8,200円
73歳 +67.2% 25万800円
74歳 +75.6% 26万3,400円
75歳 +84% 27万6,000円

受け取りを開始した後は、上記の受給額を一生涯受け取ることになります。

繰り下げ受給に対する現状の問題点と今後の課題

公的年金は、他の社会保険(健康保険、介護保険、雇用保険、労災保険)と同様、リスクに備える保険制度です。障害年金や遺族年金もありますが、現在問題視されているのは、今後迎える超高齢化社会に向けた対策です。老齢年金は終身年金であることから、長生きリスクに対応したものでなければいけません。そういった意味からも、可能であれば少しでも長く働き、年金を受け取る年齢を先にする繰り下げ受給制度を有効活用し、受給額に厚みを持たせる方法を考える必要があるでしょう。

しかしながら、厚生労働省年金局が発表している「令和元年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」を見ても、現在の繰り下げ利用率は1.5%と低い状況です。

<国民年金 受給権者の繰上げ・繰下げ受給状況の推移>

繰上げ受給率
(%)
本来受給率
(%)
繰下げ受給率
(%)
2015(平成27)年度 15.3 83.5 1.2
2016(平成28)年度 14.5 84.3 1.2
2017(平成29)年度 13.6 85.2 1.3
2018(平成30)年度 12.9 85.8 1.3
2019(令和元)年度 12.3 86.3 1.5

参照:厚生労働省年金局「令和元年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」をもとに編集部が作成

繰り下げ受給を利用しない理由としては、以下のようなケースがあります。

・65歳時点に繰り下げを選択することは本来受け取るべき時期に受け取らないことで、年金の支払いが停止され、受け取るまでの間に亡くなってしまうケース
・再雇用の際に予想していたよりも収入が低いケースを想像すると、受け取りを後延ばしにすることに対する不安が大きく心理的に難しいこと
・繰り下げを行うと妻に付くはずであった加給年金や振替加算においても、待機期間中は合わせて支給停止となり支給されないこと

特に加給年金は特別加算額を合わせると39万円とかなりの額になることから、それを受け取らないと選択することはもったいないという考えを抱く方が多いのではないでしょうか。

この問題に対しては認知度が低いことからも、年金支給が65歳からとなる世代や、共働きが主流で生年月日からも加算が付かない人が多くなるこれからの世代に対し、就労の長期化の必要性と合わせて、長生きリスクに備える手段としての繰り下げ制度について、より正確な周知を進めることが必要といえます。

在職老齢年金の見直しおよび在職定時改定の導入

次に、在職老齢年金についてはどのような改正が行われたのでしょうか。

在職老齢見直しの内容

在職老齢年金については、65歳以降の在職老齢年金の見直しは見送られました。60歳から64歳の方に支給される特別支給の老齢厚生年金を対象とした在職老齢年金について、2022年4月から支給停止基準額が現行の28万円から47万円へ引き上げられることとなります。ただし、特別支給の老齢厚生年金が支給される1961年4月1日以前生まれ(女性の場合は1966年4月1日以前生まれ)の人に限られます。

在職定時改定の導入とそれに伴う影響

また、今回の改正法には「在職定時改定」という仕組みの導入が盛り込まれています。現行の制度では、65歳からの老齢厚生年金の受給権を取得した後に就労した場合においては、退職時もしくは70歳到達時に受給権取得後の被保険者であった期間を加えて、老齢厚生年金の額を改定しています。

今回の改正法では、65歳以上の在職者については2022年4月より、在職中であっても毎年1回年金額の改定を行い、10月分から反映させるという「在職定時改定」が適用されることとなります。

これは、65歳以降も働く人にとっては、就労期間が延びたことによる年金額の増加を年単位で実感しやすくなることにつながります。特に年金額が低い人にとっては、就労によって得られる賃金と年金収入を合わせて生計を立てる際のキャッシュフローの改善につなげやすくなるといえます。

今後の施行スケジュールについて

今回の年金制度改正法の主な改正事項とその施行時期については以下のとおりです。

2022年4月 ・繰り下げ受給の上限を70歳から75歳へ延長(増額率は変更なし)。
・繰り上げ受給は60歳で変更なし。ただし、1ヵ月ごとの減額率を現行0.5%から0.4%に変更
・65歳未満の在職老齢年金の減額の基準額について、現行の28万円から47万円に変更
・65歳以降も厚生年金に加入する場合、在職中であっても毎年1回年金額の改定を行う「在職定時改定」の制度を導入
2022年10月 ・101人以上の企業において、週20時間以上30時間未満の短時間労働者も厚生年金の加入対象とする
・個人事業所の一部について適用を拡大(従業員5人以上の法律および会計事務を取り扱う士業)
2024年10月 ・51人以上の企業で週20時間以上30時間未満の短時間労働者についても厚生年金の加入対象とする

2022年から2024年にかけて段階的に適用されることから、スケジュールについてはしっかりと把握し、今後の改正における動向についてもチェックを怠らないようにしておきましょう。

今後、長生きリスクにも対応していかなければいけません。年金の受取方法はもちろんのこと、運用を取り入れた資産形成の考えも必要となります。また、雇用制度の見直しにより、70歳程度までの就業は当たり前となってくるでしょう。しかし、再雇用されるためには必要とされるスキルが身についていないといけません。もちろん、再雇用以外にも定年後に事業を始めるという考え方もあります。

今回の年金制度改正は、60歳以降も働く意欲がある高齢者はメリットが多いものになっており、今後の改正においてもその傾向が続くと考えられます。就労時間が増えて収入が得られれば、その分、老後の生活を豊かにすることにつながります。60歳以降も自分に合った働き方を取り入れていきましょう。(提供:Incomepress

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