「シェアリングエコノミー」定着の課題、邪魔をしているのは?

「シェアリングエコノミー」定着の課題、邪魔をしているのは?

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(本記事は、橋本之克氏の著書『世界最前線の研究でわかる!スゴい!行動経済学』総合法令出版の中から一部を抜粋・編集しています)

シェアリングエコノミーの発展を邪魔するズルい人々

カーシェア,サブスクリプション

(画像=Andrey_Popov/Shutterstock.com)

シェアリングエコノミーがかなり普及、定着してきました。これは場所・乗り物・モノ・人・スキル・お金を、インターネット上のプラットフォームを介して個人間でシェア(貸借や売買や提供)する新しい経済の動きです。

2008年に始まった、個人が所有する空き部屋などを貸し出す「Airbnb」、自家用車を利用した配車サービス「Uber」などが草分けと言われています。その他にも、家具、服、自転車、駐車場、会議室、家事スキルなど様々なシェアが登場しました。すべて、インターネットと端末で手軽に利用できます。

プロフェッショナルサービス会社のプライスウォーターハウスクーパースは、2013年に約150億ドルだったシェアリングエコノミーの市場規模を、2025年には約3350億ドル規模に成長すると試算しています。シェアリングエコノミーは過剰な消費や所有をなくし、資源を有効に活用する仕組みです。

ゆえに、持続可能な社会の実現に役立ちます。提供者側は遊休資産を価値あるものにできますし、利用者側は低料金でサービスやモノを利用できます。関わる多くの人々にメリットを与えます。従って、今後も引き続き普及、拡大するべきものでしょう。ただし、そこには何か課題はないのでしょうか。

シェアリングエコノミーをスムーズに進めるためのインフラは整いつつあります。テクノロジー面の問題はだいぶ解消されました。ただし人間心理に関わる部分は、まだ課題が残されているように思えます。以下、人間の心理に注目して検討していきます。

シェアは誰かと何かを共有し、分け合うことです。

シェアリングエコノミーの仕組みを利用していくと、どこかで、人とのつながりが生まれます。直接顔を合わせなくても、シェアされるモノやサービスを介在して、使用した痕跡やプロセスは見えるものです。そこにはマナーや気遣いが必要になります。

特に、シェアハウスのような生活の場をシェアするようなケースは、人間関係がシェアの成否を左右します。シェアハウスのトラブルで聞かれるのは、キッチンの共有冷蔵庫に入れておいた自分の食べ物がいつの間にかなくなっていた、といった問題です。

こういったトラブルは、明らかな悪意に基づくものもあれば、さほど悪気のないちょっとした「ズル」のようなものもあります。中には、当人が気づかず起こすものもあるかもしれません。

それら「不正や不正直」の心理を理解し、適正な解決を行うことは重要です。これは一見、些細な問題に見えるかもしれません。しかし、ネガティブな評判のインパクトはあなどれません。キッチン内での小さな出来事が、シェアリングエコノミー全体にまで影響を与えないとも限らないのです。

トラブルの根本にある「不正や不正直」に関しては、様々な研究者が取り組んでいます。ノーベル経済学賞を受賞したシカゴ大学のゲーリー・ベッカーは、「シンプルな合理的犯罪モデル:SMORC(Simple Model of Rational Crime)」という理論を構築しました。

これは人間が合理的だという前提に立った行動パターンです。犯罪による「リスク(捕まる確率×捕まった場合の処罰の大きさ)」と、犯罪による「ベネフィット」を天秤にかけ、利益が大きければ人は犯罪に走ると考えます。

例を挙げると「会議に遅れそうな時に駐車場が見つからず違法駐車をする」行動です。そこで、違反切符や反則金という「コスト」と、会議に間に合うという「ベネフィット」を比較検討します。その会議が、反則金以上の利益を得る商談なら違法駐車をするというのが、SMORCの考え方です。善悪の判断を省いて、コストとベネフィットの比較で意思決定をするのです。

人間が合理的であることを前提としたかつての経済学の考え方であれば、人間がこのように意思決定しても不思議ではありません。もしこういった状況になったら、そこでの不正を正す最高の方法は、「極限まで罰則を厳しくすること」です。しかし、それは危険かもしれません。

SMORCとは逆に、人間が不合理であることを前提とした行動経済学の観点に立てば、不正を行う人の思考プロセスや行動パターンは違うものになります。その場合には、不正を正す方法も異なるでしょう。

ダン・アリエリーは、この行動経済学に基づく「不正や不正直」の調査や研究を多数、行っています。実験の1つに以下のようなものがあります。

実験参加者を2グループに分けて、計算の課題をやってもらいます。例えば5.28のように、整数一桁と小数点以下2桁で表わされる小数が12個並べてあります。その中から一組「3.67+6.33」のような、足して10になるペアを見つける課題です。5分で20問解き、正答1問につき50セントもらえます。

2つのグループは、この後の条件が違います。

第1グループ:制限時間5分が来たら実験者に解答を渡します。実験者は解答をチェックして正答1問につき50セントの報酬を渡す
第2グループ:5分経って実験が終了したら正答数を自分で数えます。解答用紙はシュレッダーで処分し、正答数を実験者に自己申告して報酬をもらう

その結果、第1グループでは平均正答数が20問中4問、第2グループは6問でした。第1グループにおける正解は、普通に努力した結果です。第2グループも課題を解くための計算力が同じだとすると、平均してプラス2問の過大申告をしたと考えられます(ちなみに得点を大幅に過大申告した人はごく少数で、多くの人が少しずつ多く申告するという結果でした)。

ここで注目すべきなのは、「ごまかし」の数がそれほど大きくないことです。シュレッダーで証拠隠滅をするのですから、いくらでも正答数をごまかして報酬を増やすことが可能です。それにもかかわらず、正解した4問にたった2問加えただけという結果でした。

アリエリーはこの実験を、条件を変えながら複数回行っています。前記では1問正解でもらえる報酬は50セントでした。これを25セント、1ドル、2ドル、5ドル、10ドルと様々なパターンで行ったのです。その結果は、報酬の金額に関わらず自分の正解数に平均2問上乗せするという結果でした。しかも、正解1問につき報酬10ドルという好条件の時であっても上乗せは増えず、逆に若干少なかったのです。

この実験からは、正解数を1つ増やすだけで、手に入れるお金が明らかに増える条件であっても、不正に対して積極的になる人は少ないという傾向が明らかになりました。

前述のSMORCによれば、人は犯罪のリスクとベネフィットを天秤にかけて行動するということでした。それが正しいのであれば、今回のように発覚するリスクが少なければ、積極的に不正を行うことになります。しかし実際は、そう単純ではありませんでした。

アリエリーの分析によると人の心には、自分が正直で立派だと思いたい心理と、ごまかして利益を得たい心理の2つが併存するということです。そして少しだけ「ズル」をする程度であれば、自分を正当化して自尊心を失わずにいられるというのです。この心理を、アリエリーは「つじつま合わせ」と呼んでいます

アリエリーは別の実験で、どんな気分の時に「ごまかし」が起きやすいかについても調べています。

コーヒーショップでランダムに対象者を探して行った実験です。俳優を本職とする実験者が、協力してくれる対象者を見つけて、文字がランダムに並んだ問題用紙を10枚渡します。同じ文字が連続した箇所をなるべく多く探し、鉛筆で囲むという課題です。

課題が終わると実験者が用紙を集めてお金を渡し「報酬の5ドルです。確認したら領収書にサインして置いておいてください」と言って去ります。ただし、渡す金額は5ドルではなく9ドルなのです。

ここでは実験者が実験開始時に2パターンの行動を取ります。第1パターンは前記のとおりですが、第2パターンは初めの課題説明の最中に対象者を不快にさせる演技を行います。携帯電話に電話がかかってきたふりをして、対象者を無視したまま大声でプライベートな話をするのです。この12秒程度の芝居の後は、何もなかったように課題を説明し、第1グループと同じ手順を進めます。

この調査の狙いは、「苛立ち」を感じない第1グループと「苛立ち」を感じる第2グループで、間違えた分のお金を正直に返すかどうかを比較することです。割合を比較した結果、第1グループで返金したのは45%で、「苛立ち」を感じた第2グループでは14%となり、大きな差が出ました。この実験を通じてアリエリーは、一度「苛立ち」を感じると人は、自分の反道徳的行動を正当化し、実際に行ってしまうと結論づけています。

さらにもう1つ、ニューカッスル大学のメリッサ・ベイトソンらによる実験を紹介しましょう。大学の教職員が紅茶やコーヒーを自由に作れるキッチンに、「飲み物を作る人は近くの『正直箱』に代金を入れてください」と大きな貼り紙を掲げました。

実験は10週間かけて行われ、5週間は貼り紙の横に「花の写真」を貼りました。そして残りの5週間は、飲み物を作る人を「じっと見つめる目の写真」を貼りました。すると、「目の写真」の時に入れられた金額は2.76倍にはね上がったのです。実験からは、ほんのわずかでも監視されているかのような感覚を持たせるだけで、不正の抑止効果があることが示されました。

環境犯罪学には、米国の犯罪学者ジョージ・ケリングによる「割れ窓理論」というものがあります。「放置された建物の壊れた窓は、誰も注意を払っていないことを示し、やがて他の窓もすべて壊される」という考えです。ここで取り上げている不正はシェアリングエコノミーに関連するもので、本格的な犯罪とは異なりますが、「小さいものも放置すれば広がってしまう」点は同じかもしれません。

ここで紹介したいくつかの実験によって、不正に関する様々な心理や行動が浮き彫りになっています。人は単に利益を求めて不正をするのではありません。正直でありたいという気持ちと利益を得たい欲求を天秤にかけて行動します。

そこでは、少しの「ズル」なら自尊心は傷みません。人は苛立ちによって不正に手を染めることがあります。逆に監視されている感覚をもつだけで、実際に監視されていなくても不正をせずに踏みとどまります。

こういった行動経済学などによる発見は、シェアリングエコノミーをスムーズに進める際に、人間心理を理解して問題に対処するための方法を示唆しています。

さらに、これらは社会における様々な不正にも広く活用できるでしょう。例えば、仕事で怠ける人がいる、共有の備品をこっそり持ち帰る人がいるなど、小さな不正は身近なところにたくさんあります。小さい不正も放置すれば大きくなる可能性があります。

純粋な悪意をもって不正を行う人は多くはないのです。

ほとんどは心中に「正直で立派でいたい」と「ごまかして利益を得たい」の両方をもつ「普通の人」です。だとすると不正を正すためには、正直で立派でいたい意識を刺激するのが、スマートで応用が利くベストな方法かもしれません。

世界最前線の研究でわかる!スゴい!行動経済学

橋本之克(はしもと・ゆきかつ)
マーケティング&ブランディングディレクター、著述家。東京工業大学工学部社会工学科卒業後、大手広告代理店を経て1995年日本総合研究所入社。環境エネルギー分野を中心に、官民共同による研究事業組織コンソーシアムの組成運営、自治体や企業向けのコンサルティング業務を行う。1998年アサツーディ・ケイ入社後、戦略プランナーとして金融・不動産・環境エネルギー業界等多様な業界で顧客獲得業務を実施。2019年独立。現在はマーケティングやブランディング戦略のコンサルタント、行動経済学に関する講師、著述家として活動中。著書に『9割の人間は行動経済学のカモである――非合理な心をつかみ、合理的に顧客を動かす』『9割の損は行動経済学でサケられる――非合理な行動を避け、幸福な人間に変わる』(ともに経済界)、『モノは感情に売れ!』(PHP 研究所)ほか。2級ファイナンシャル・プランニング技能士、宅地建物取引士、東京商工会議所2級カラーコーディネーター。

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