分散投資は「リターンを拡大する方法」ではない理由

分散投資は「リターンを拡大する方法」ではない理由

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(本記事は、近藤駿介の著書『202X 金融資産消滅』ベストセラーズの中から一部を抜粋・編集しています)

分散投資に対する誤解

分散投資

(画像=PIXTA)

「さまざまな種類に分散して投資すればリスクも分散され、リターンの安定度が増すことが期待されます」

最近は、「ドルコスト平均法」による積立投資を検討している投資初心者に対して、このような言葉で、まずは分散投資をした投資信託などから投資を始めることを勧めることも多いようです。

「投資の常識」になっているともいえる「積立投資を始める時は分散投資」という考え方も必ずしも合理的なものであるかは定かではありません。

金融庁のウェブサイトでは、「分散投資」について下記のような解説をしています。

「リスクを減らす方法の一つに分散投資があります。分散投資には、「資産・銘柄」の分散や「地域の分散」などのほか、投資する時間(時期)をずらす「時間(時期)分散」という考え方があります」(金融庁ウェブサイト「分散投資」)

この中の「時間(時期)分散」を図るための代表的な手法が「ドルコスト平均法」による積立投資です。

これに続いて「資産・銘柄」の分散については、次のように説明されています。

「投資対象となる資産や、株式等の銘柄には様々なものがありますが、それぞれの資産・銘柄は、常に同じ値動きをするわけではありません。例えば、一般的に、株式と債券とでは、経済の動向等に応じて異なる値動きをすることが多い(例えば株式が値上がりするときには債券が値下がりする等)と言われています。

こうした資産や銘柄の間での値動きの違いに着目して、異なる値動きをする資産や銘柄を組み合わせて投資を行うのが「資産・銘柄の分散」の手法です。こうした手法を取り入れることで、例えば特定の資産や銘柄が値下がりした場合には、他の資産や銘柄の値上がりでカバーする、といったように、保有している資産・銘柄の間で生じる価格変動のリスク等を軽減することができます」(金融庁ウェブサイト「分散投資」)

投資初心者には少し理解しにくい説明かもしれませんが、重要な点は分散投資は「リターンを拡大する方法」ではなく「リスクを減らす方法」、中でも「価格変動のリスク等を軽減する方法」だということです。

株式は価格変動リスクが高い資産なので、株式よりも価格変動リスクが低く、異なった動きをする債券などを組み合わせた分散投資をすることによって、資産全体の価格変動リスクの低減を図ることが可能です。GPIFなど大きな資金を運用する機関投資家の基本はこの分散投資です。

ここで投資初心者に気を付けていただきたいことは、「リスク」というと「損失を被ること」だと思いがちですが、投資の分野で「リスク」といった場合は通常「価格変動リスク」のことを指すということです。金融商品を勧める営業マンや運用を行っているファンドマネージャーたちが口にする「リスク」は「価格変動リスク」であって、多くの方がイメージする「損失を出すリスク」を表していないことが多いのです。

「価格変動リスク」とは文字通り、価格が上下に変動することでその大きさは統計的処理によって数字で表されます。「価格変動リスクが高い」といった場合は変動が激しいということですが、これが必ずしも損失が出る可能性が高いという意味ではないのです。

「価格変動リスク」が高いというのは、株価の値動きが上下に激しいということなので、損失が出た場合に損失額が大きくなる可能性があるのと同時に、大きな利益を生む場合もあるということです。つまり、損失が生じた場合には損失額が大きく、同時に利益が出た場合には利益額が大きくなるというような資産を「価格変動リスクが高い資産」、「ハイリスク・ハイリターン」と呼ぶのです。決して「リスクが高い=損失を被る可能性が高い」「リスクが低い=損失を被る可能性が低い」という意味ではないことをまず理解しておく必要があるのです。

それゆえ、分散投資によってリスクを低減できるというのは、「損失を被る可能性を下げられる」ということではなく、「損失を被った時の損失額を大きくしないようにすることができる」という意味なのです。

分散投資をすることによって「損失を被った時の損失額を大きくしないようにすることができる」というのは、投資初心者にとっては大きな安心材料になるに違いありません。しかし、だからといって「ドルコスト平均法」による積立投資を、分散投資を掲げる投資信託で始めるというのが賢明な策であるということにはなりません。

清水の舞台から飛び降りるような覚悟で「ドルコスト平均法」による積立投資を始めた投資初心者には、スタート直後の損益状況がとても気にかかると思います。積立投資を始めた途端に期待に反して想定外の評価損を抱えてしまうと心が折れ、積立投資を続けていくことに不安を覚えることもあるでしょう。

しかし、長期の積立投資をする人が気にしなければいけないことは、初めて間もない期間、つまり積立期間が短い時期の短期的な損益よりも、最終的な投資額や目標金額に対して、どのくらいの損益が生じているのか、そしてどのくらいのリスクを抱えているのかということの方です。

例えば、30年後に3000万円の金融資産を作ることを目標に、毎月5万円ずつ積立投資をしていく場合、最初の1年の投資総額は60万円です。仮に投資総額が60万円になった1年後にリーマン・ショック級の事態に直面し、投資総額の半分に相当する30万円の評価損を抱えたケースを考えてみましょう。

投資総額60万円の半分の30万円が失われるというのは、資産形成を始めたばかりの投資家にとって極めて深刻な事態に映るはずです。しかし、目標額である3000万円と比べてみると、30万円の評価損は僅か1%に過ぎませんし、30年間の投資総額1800万円(=5万円/月×12か月×30年)に対しても60分の1、1・67%に過ぎないものです。

要するに、積立投資を始めて1年後に株価下落に襲われたとしても、資産形成の最終目標額に比べれば致命的な損失にはなり難いということです。これが、例えば積立投資を始めてから25年、積立総額が1500万円に達していた時に株価が半値になるようなショックが起き、積立額の半分、目標額の25%に相当する750万円が吹き飛ぶような事態に見舞われたらそれは資産形成上致命的な損失であるだけでなく、それまでの25年間が無駄になりかねない事態だといえます。

このような例からも分かるように、「ドルコスト平均法」で買付コストを平準化したとしても、積立投資ではゴールに近付けば近付くほど、株式などリスク資産の「価格変動リスク」が資産形成の結果に大きな影響を及ぼすという宿命から逃れることはできません。

つまり、積立投資を行う投資家が回避しなければならないのは、積立投資を始めて間もない頃の株価の下落ではなく、積立期間が長くなり投資元本が大きくなってからの株価の変動だということです。

こうした運用上の理屈からすると、分散投資を掲げる投信などを投資対象に積立投資を始めることが賢明な選択だとはいいきれません。投資額が目標額に対して少額であり、資産形成計画に致命的な悪影響を及ぼさない時期のリスクの回避に過剰になる必要があるのかという問題です。

「若いうちはリスクを取れる」という「投資の常識」に照らし合わせれば、若い頃、つまり積立投資を始めて間もない期間の損益は、将来的な最終目標金額からみたら神経質になる必要はないので、コストをかけて分散投資を掲げる投信などに投資するよりも、コストの低い株式投信やETF(上場投資信託)といった相対的にリスクが高いとされるリスク資産を中心とした積極運用を心がけた方が賢明な選択であるともいえるのです。ゴールまでの期間が長ければ長いほど、株式市場の価格変動に伴う損失リスクが目標額に対するリスクとしては小さいのですから。

「若いうちはリスクを取れる」という「投資の常識」は、「歳を重ねるにつれてリスクを落とした運用をできるようにしていけ」と解釈することもできます。そして、繰り返しになりますが、「ドルコスト平均法」を利用した積立投資の特性の一つは、投資期間が長くなり、ゴールに近付けば近付くほど資産の価格変動リスクに伴う損失が致命的になり得るということです。こうした特性からいえることは、積立投資の期間が長くなるにつれて投資対象を分散させ、資産全体の価格変動リスクを下げていくことを心がけていく必要が高くなるということです。

つまり、「ドルコスト平均法」による積立投資をする場合は、投資期間がまだ短い時期には積極運用を目指し、投資期間が長くなり投資金額が大きくなるにつれて分散投資を進めていくというのが一つの論理的な考え方になるのです。

投資初心者に、積立投資を始める時は分散投資を謳った投資信託などから始めた方がいい、と言うのは販売会社側の理屈であるといえます。販売会社側からすれば、積立投資を始めようとしている投資初心者はこの先長年にわたって手数料を払ってくれる可能性の高い大切な顧客です。

同時に、評価損を抱えることに慣れていない投資初心者は、積立投資を始めてすぐに期待に反する形で投資金額に比較して大きな損失を抱える事態に見舞われると、心が折れて積立投資を止めてしまう可能性もある投資家でもあります。それゆえに販売会社側は、顧客離れを防ぐことを優先して、大きな損失を被りにくい分散投資から始めることを勧めるのだと思います。

しかも、分散投資を謳う投資信託の中には「ファンド オブ ファンズ(Fund of funds)」という複数の投資信託に投資する形式をとっている商品も少なくなく、証券会社や運用会社に入る報酬も増えるという傾向もあります。それは、投資家側からするとその分コストが割高になりがちだということです。規模は別にして、必要以上に高い信託報酬を払い続けるということは、投資で損失を出し続けるのと大差ないのです。

資産形成全体の目標からみれば特別ヘッジする必要のないリスクを、コストをかけてまでヘッジするというのが合理的な判断なのか、積立投資を始める前に一度考えてみることをお勧めしたいと思います。

仮に勧められるがままに分散投資を謳った投資信託を使って積立投資を始めてから、しばらくの間日本株が上昇基調を続けたら皆さんはどう思うでしょうか。分散投資をしてリスクを抑えておいてよかったと思うのか、それとも思い切ってリスクを取って日本株に投資しておけばよかったと思うでしょうか。

リスクを抑えた運用をしていてよかったと思える人は、そのままずっと分散投資を続けることができるかもしれません。しかし、思い切ってリスクを取ればよかったという後悔の念を持つ人は、どこかのタイミングでリスクを取った運用を試みる可能性が高いのではないでしょうか。しかし、それは「年齢を重ねてから大きなリスクを取る」という、「若いうちはリスクが取れる」という「投資の常識」に反する行動を起こすことにもなるのです。

「ドルコスト平均法」などを利用した長期間の資産形成をする場合に重要なことは、ゴールまでの投資期間の長さに応じてリスクを抑える運用をしていくのが原則だという認識を持っておくことです。

この原則に従って、自分の年齢を考慮して定期的に資産構成を見直していくことが必要です。そしてこの資産構成の見直しをする際に重要なことは、自らの年齢と投資期間を判断基準の最重要要素とし、決して短期的な相場観を優先しないということです。

若いうちに少し多めのリスクを取って、年齢を重ねるにつれてリスクを抑えた運用に切り替えていくか、それとも若いうちは慎重にリスクを抑えた運用から始め、慣れてきたらリスクを取りに行くのか。それを決めるのは投資家の自己責任です。

「歳を重ねるにつれて投資リスクが大きくなる」「最終的な収益はゴール時点の日経平均株価の動向に大きく依存する」という特性を持つ「ドルコスト平均法」で資産形成を図ろうとする人にとって、これまで株式市場の「太陽」であったGPIFが、「北風」を吹き付けるようになることが確実な情勢になっていることは極めて重要な問題です。

なぜなら、これまで時間をかけて積み立ててきた人ほど、苦労して積み上げてきた金融資産がGPIFから吹きつけられる「北風」によって吹っ飛ばされてしまうリスクが高いからです。既に長い期間積立投資を行ってきていて、被るかもしれない被害額が目標金額やこれまでの累計投資額に対して無視し得ないものになる可能性のある人には、GPIFの現在置かれた状況を客観的に確認し、資産構成を見直す必要の有無を検討していただきたいと思います。

202X 金融資産消滅

近藤駿介(こんどう・しゅんすけ)
金融・経済・資産運用評論家。1957年東京生まれ。早稲田大学理工学部土木工学科卒業。大手総合建設会社勤務を経て、31歳で野村投信(現・野村アセットマネジメント)に入社。ファンドマネージャーとして25年以上にわたり、株式、債券、デリバティブ、ベンチャー投資、不動産関連投資など、さまざまな運用を経験。90年代中頃には合計約8000億円と日本最大規模の資金を運用していた。現在は、評論家、コンサルタントとして活動し、テレビ、webメディア、雑誌などにコメント提供や記事執筆をしている。著書に『1989年12月29日、日経平均3万8915円』(河出書房新社、2018年)などがある。

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